人口約2,100人の過疎地── そこには六合温泉医療センターを核に 医療・保健・福祉の包括ケアを実践する画期的試みがあった |
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| 群馬県 六合村(くにむら) | ||||||||||||||||||||||||||
「お父さんがよく面倒をみてくれる。近所の人にも、いいだんなさんがいて良かったわねと言われます」 そう言いながら、安ヵ川まついさん(70歳)は涙ぐんだ。夫の正一さん(74歳)への感謝の気持ちと、まだ若い自分に対しての悔しさが入り混じった涙のように思えた。 悪夢は3年前の平成8年3月のこと。長寿会の行事で下呂温泉へ行くための準備をしていたときだった。まついさんは「頭が痛い。背中をなぜて」と言ったまま倒れこんでしまった。動かなくなったまついさんは、長野原町の病院へ救急車で運ばれた。脳内出血だった。すぐに前橋市の脳神経外科病院へ移され、手術。 しかし、意識は戻らなかった。正一さんはこのままかもしれないと覚悟した。元気で働き者の妻がなぜ。なんとか元の姿に戻ってほしい。願いが通じたのか、1か月半後、まついさんは奇跡的に意識を取り戻した。しかし、左半身に障害が残ってしまった。
3か月後、医療的施療は終了したとのことで退院を促された。正一さんはいくつかの病院を視察したが六合村からは遠く、「姥捨て山にやるような」気持ちになり、思い悩んでいた。そんな折、村の「六合温泉医療センター」を知った。 「六合村に診療所があることは知っていたが、入院施設があるとは知らなかった。わらをもつかむ気持ちでしたから、本当に助かりました」 8月中旬に入院。最初は、自力で食事ができず、かむこともできない流動食、話すこともできなかった寝たきりのまついさん。それが、柔らかいものはスプーンを使って右手で食べるようになった。たどたどしいが話すこともできるようになった。徐々に回復の兆しが見えてきた。そして9月上旬には退院にこぎつけた。 それからは、センターの老人保健施設「つつじ荘」を含めた総合的ケアに支えられ、まついさんは在宅で介護を受けている。
六合村の医療・保健・福祉分野の中核を担う「六合温泉医療センター」は、六合村診療所(病床数19名)、老人保健施設「つつじ荘」(入所定員50名、通所定員15名)、健康増進施設「バーデ六合」の三つからなる複合施設。設備整備や維持管理といったハード面を行政が受け持ち、医療などの実践といったソフト面は自治医科大学が母体となった社団法人地域医療振興協会に管理運営を委託している。これは地方自治法に基づくもので、公立の病医院の管理運営を、営利を目的にしない団体に限って認めるという「管理運営委託」方式の全国で初めてのケースだ。 このことは、サービスの質を変えた。医療センター長の折茂賢一郎医師は話す。 「親方日の丸的な公立病医院体制から脱皮することで、医者を中心とした従来からの医療でなく、患者を中心とした医療へと大きく踏み出しました。医療・保健・福祉を合体させた活動を患者の立場で考え、行政といっしょになって実現する包括ケアを実践しています」
それを裏づけるのが「高齢者サービス調整チーム」の活性化だ。行政からは福祉担当者や保健婦、社会福祉協議会からはホームヘルパー、医療センターからは医師、保健婦、看護婦、理学療法士、介護福祉士、栄養士らが出席し、定期的な会合を開いている。それぞれの立場から意見を交わし、問題の解決に当たる。中心となっているのは平成10年4月に医療センター内に開設した在宅介護支援センター。そのため医療主導でも行政主導でもない、福祉主導のケアのあり方がつねに尊重されることとなっている。 さらに情報の共有化も進んでいる。在宅介護を受けているお年寄りの身体状況や介護状況を、その日訪問した看護婦やホームヘルパーが入力し、関係者だけが閲覧できるクローズドのネットワーク(KUNI CARE)を構築している。一人の要介護者の様子を、関係者はだれでも把握できるようになっている。それぞれの立場にあっても情報が共有できるからこそ、お互いに意見を述べ合い、最良のケアを生み出せる。 「これからはチームアプローチの時代。一人の力ではなく、それぞれの立場から自信を持って発言していくことが望まれます。そのためにも皆がプロ意識を持ち、モチベーションを高めることが大切です。なかでもケアマネージャーの仕事がますます重要になってきます」(折茂医師)
このような六合村の包括的なケアの環境の中に、安ヵ川さん一家もいる。病院を経て、在宅介護に移行してもできる限りのケアサービスを受けている。週2回のデイケア(つつじ荘、リハビリと入浴、火曜・木曜日)、週3回のホームヘルパー(社会福祉協議会、月曜・水曜・金曜日30分、おむつ替え)、2週間に1回の訪問診療。正一さんと長男夫婦と孫が全員でまついさんを介護する。医療センターの理学療法士のアドバイスで自宅もバリアフリーにした。農業を営む正一さんは畑に出ることが多いが、介護の中心となっている。 「サービスはすばらしいの一言です。自分はまだ丈夫だから在宅でできるだけのことをしてやりたい」と正一さん。 「ベッドから起こして車椅子に乗せてほしいと頼んでもしてくれない」とまついさんは訴える。でも「起こしてやるとすぐベッドに寝たいと言うから、そんなには付き合いきれない」と正一さん。まついさんは甘えたいのかもしれない。そんなほのぼのとした夫婦である。 「お父さんは大変だけど、やっぱり家にいたい」というまついさんは、立てるようになることが夢だ。そうすればトイレにも行ける。 「どんな患者さんでも、医療・保健・福祉のすべてにわたって次のステップを提案し、実行することができます。それが私たちの仕事」と折茂医師。 山間の過疎地六合村の介護環境は来るべき福祉のあり方を示してくれた。老人保健施設「つつじ荘」で出会ったお年寄りの表情は、一様に穏やかで明るかった。「明日ここを出るけれど、具合が悪くなったらまた来ます」と言ったお年寄りのことばが印象的だった。 六合村は、さらに「福祉バス」と「お年寄りの集合住宅」の実現に動き出している。それぞれ交通の不便と生活の不便を解消するためのものだ。 過疎地六合村は福祉先進村に変貌を遂げ、さらに前に進もうとしている。
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